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青森地方裁判所 昭和42年(ヲ)120号 決定

申立人 北村真咲

右訴訟代理人弁護士 米田房雄

相手方 株式会社津軽商会

右代表者代表取締役 工藤浩吉

主文

青森地方裁判所執行官工藤正雄が、青森地方法務局所属公証人清水行義作成昭和三五年第一五、五四四号公正証書の執行力ある正本に基づく相手方の委任によりその強制執行として差押えて申立人に保管させていた別紙目録記載の動産につき、昭和四二年六月一四日、右動産を相手方に保管せしめたいわゆる保管替えの執行処分を許さない。

申立費用は相手方の負担とする。

理由

一、本件申立の趣旨は、「青森地方裁判所執行官工藤正雄が、相手方の青森地方法務局所属公証人清水行義作成昭和三五年第一五、五四四号公正証書の執行力ある正本に基づく委任により、昭和四二年六月一四日、申立人所有の別紙目録記載の動産についてなした執行の特別処分を許さない。」との裁判を求めるにあり、その理由とするところは、つぎのとおりである。

(一)  青森地方裁判所執行官工藤正雄は、申立の趣旨記載の債務名義(以下本件債務名義という。)に基づく相手方の委任を受け、同人の申立人に対する債権の強制執行として、昭和四一年一一月申立人所有の別紙目録記載の動産(以下本件動産という。)を差し押え、これを債務者たる申立人の保管に任せた。

(二)  しかしながら、申立人は、本件債務名義記載の金員を借り受けたことがなかったので、昭和四一年一二月一日、右強制執行の債権者たる相手方を被告として青森地方裁判所に請求異議の訴を提起し(同庁昭和四一年(ワ)第二九二号事件)、同時に強制執行停止決定を申請したところ(同庁昭和四一年(モ)第五六二号事件)、同月三日執行停止決定があり、右執行が一時停止された。

(三)  しかるに、前記執行官は、相手方の委任により、昭和四二年六月一四日午後五時一〇分ごろ、突然申立人方を訪れ、借金を支払わないのであれば、火災、盗難のおそれがあると認められるから保管替えをする必要があると称し、申立人が前記強制執行停止決定正本を提出して制止するにもかかわらず、強引にも本件動産を自動車に積み込んでいづれかに持ち去った。その際、同執行官は、申立人に対し、なおも借金を支払わないのであれば、本件動産と共に差押をして申立人に保管させてある申立人所有の畳三四枚、ガラス入障子八枚も近日中に保管替えをすると申し向けた。これがため、申立人は日常生活に支障を来たしているのみならず、妻北村登代名義の飲食店営業に必要な什器、備品も全部本件動産中に含まれているので、現在その営業は不能状態にある。

(四)  同執行官の前記処分は、民事訴訟法第五七一条所定の特別処分をなすについての必要性を欠くのみならず、相手方の意を受け保管替えに名を藉りて申立人に実力を加え、専ら同人を困惑せしめるためのみになされたものというべく、右は前記執行停止の効力を無視した違法かつ不当な処分であるから、その原状回復を求めるため、本件申立に及んだ次第である。

二、当裁判所の判断は、つぎのとおりである。

(一)  青森地方裁判所執行官工藤正雄作成の上申書および昭和四一年第八一号動産差押事件、当庁昭和四一年(ワ)第二九二号請求異議事件、同昭和四一年(モ)第五六二号強制執行停止決定事件の各記録ならびに申立人本人審尋の結果によれば、申立人主張の経緯で本件動産および畳三四枚、ガラス入障子八枚が差し押えされて申立人の保管に任せられたこと、申立人が昭和四一年一二月一日右強制執行の債権者たる相手方を被告として青森地方裁判所に請求異議の訴を提起し、同時に強制執行停止決定を申請したところ、同月三日執行停止決定があり、同執行停止決定正本が翌四日前記執行官に提出され、これが執行が一時停止されたこと、その後昭和四二年六月一四日、債権者たる相手方から申立人保管中の前記差押物件につき火災、盗難等のおそれありとして保管替えの申請がなされたので、前記執行官はそのおそれの有無について十分な調査をすることなく漫然と右申出を受け入れ、同日午後五時ごろ、本件申立人方に臨み同人が前記強制執行停止決定正本を提出して制止するにもかかわらず同人保管中の本件動産を自動車に積み込んで搬出したうえ、相手方倉庫に保管させたこと、さらに残余の差押物件たる畳三四枚、ガラス入障子八枚は近日中に保管替えする旨申立人に対し申し向けたことが、それぞれ認められる。

(二)  思うに、執行官は一旦従来の占有者たる債務者に差押物件を保管せしめたる後といえども、債権者に危害があるものと思料するときはいつでも差押物件を自ら占有し、あるいはその差押物件を保管するための適当な保管場所をもたない場合には、債権者もしくは第三者に保管させる方がより適当であり必要であるときはこれらの者に保管させるいわゆる保管替えの処分をすることができるものと解すべきであるが、執行官が従来の占有者たる債務者に差押物件を保管させたままの状態において強制執行停止の決定がなされ、その決定正本が執行官に提出されたときは、停止の効力として執行官は新たな執行を開始し得ず、また、すでに開始された執行も続行し得ないものであるから、執行官がその差押物件を債務者から取り上げて自ら占有し、または債権者もしくは第三者に保管させるいわゆる保管替えの処分も一種の続行処分に準ずるものとして原則として許されず、例外として強制執行停止中の差押物件が腐敗もしくは著しく価格減少のおそれがある場合にのみ、執行官は民事訴訟法第五七一条の規定により適当な処分ができるものと解するのが相当である。

(三)  ところで、前記執行官工藤正雄作成の上申書によれば、同執行官は本件のいわゆる保管替えの処分を民事訴訟法第五七一条所定の特別処分としてなしたものではないと申述しているところ、前記説示のとおり、このような保管替えの処分は執行停止中にあっては右法条所定の特別処分としてのみ許されるのであるから、この点において同執行官の右処分は執行に際し遵守すべき手続に違背しているのみならず、かりに右処分が右法条所定の特別処分としてなされたものと見うる余地があるとしても、前記認定のとおり同執行官は火災、盗難等のおそれの有無につき十分調査することなく漫然といわゆる保管替えをしたものであり、また本件全資料によるも、右のいわゆる保管替えの処分をなすに必要な、差押物件が腐敗もしくは著しく価格減少のおそれがあったと解される特段の事情も認められない。

(四)  以上のとおりであって、右執行官のなした本件のいわゆる保管替えの処分は、執行に際し執行官が遵守すべき手続に違背しているものというべく、これが処分は許されない。

よって、申立人の本件申立は理由があるからこれを認容し、申立費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 辻忠雄)

〈以下省略〉

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